ふたりは、今、セイシェルに向かっている。
早朝、アラブ首長国連邦のドバイ国際空港を立ち、アラビア半島の砂漠を抜け、インド洋上空をずんずん南下している。
空は綺麗に晴れ渡り、太陽は真っ白に輝き、窓から入ってくる日差しがきつい。
海は何もアクセントがなく、とても穏やかで、ときどき米粒のようなタンカーを見かけるくらいだ。
雲ひとつなく濁りがない海と空は、隔たりなくお互い溶け合っているようだった。
しばらくして、遠く海上に霞む黒ずんだものを島かと見間違えていたが、それが雲だった。
セイシェルは、インド洋のほぼど真ん中、赤道直下にある共和国だ。
南緯4度から10度、東経45度から56度の間に、異なった大きさと地形の42の花崗岩の島々、73の珊瑚の島々からなる。
首都ヴィクトリアがあるマヘ島から南西のマダガスカル島まで1100キロ、北西のアフリカ大陸(ソマリア)まで1300キロ離れている。
海域は東から西までが約1800キロ平方メートル、北から南までが約1400キロ平方メートルにも及ぶ。
103万平方キロメートルもある広い海洋のなかに、国土がわずか455キロ平方メートルで、島全体の面積を合わせても種子島ほどである。
大小115の島々それぞれも離れてあり、これらは大きく4つの諸島群に分けられる。
セイシェル最大のマヘ島、伝説の果実といわれるココ・デ・メールの椰子の実が生るプララン島などのセイシェル諸島、その南西にあるデロッシュ島などのアミラント諸島、ずんずん南下してプロビデンス島などのファーカー諸島、マフダガスカルに近い南の15万頭ものゾウガメが生息するアルダブラ環礁があるアルダブラ諸島及びコズモレド諸島などである。
島々の3分の1は無人島だ。
最大の島マヘは総面積の3分の1を占める153平方キロメートルである。
マヘ島を中心にしたセイシェル諸島は花崗岩質であり、花崗岩というのは地質学上かなり古い部類の土地であるらしい。
1912年、ドイツの地球物理学者ウェゲナーが唱えた大陸移動説である。
ウェゲナーが大陸移動説のなかで、現在の諸大陸が分裂する前にひとつであったとする超大陸のことを「パンゲア大陸」と呼んでいる。
2億8千万年から1億9千万年の間という気が遠くなるような時間、現在の南極を含むすべての大陸はアフリアを中心に地続きでひとつだったという。
北半球のユーラシア、北アメリカの「ローラシア大陸」と、南半球の南極、アフリカ、オセアニア、南アメリカの「ゴンドワナ大陸」に区別されることもある。
1億9千万年から1億3千万年前の間、恐竜が闊歩するジュラ紀にゴンドワナ大陸は分裂をはじめ、6千5百万年前に移動、海沈、海没など繰り返すことにより、徐々に現在の大陸のかたちになったそうだ。
セイシェルも、アフリカから分裂したとされるマダガスカルなどと同じくゴンドワナ大陸から、気が遠くなるような長い時間を経てできた島だといわれている。
1000メートルに満たないマヘ島の山間部だが、長い年月をかけて浸食作用を繰り返してきたため、その形状は激しく起伏している。
セイシェル諸島の花崗岩の地質とアフリカ大陸の地質が同じで、ほぼ重なるとも言われている。
セイシェル諸島には、ココ・デ・メールと呼ばれる双子椰子の実などの珍しい植物や、哺乳類は少ないものの、珍しい鳥類や爬虫類など島固有の生物が存在する。
因みにココ・デ・メールが自生するヴァ・ド・メレ渓谷自然保護区と、ガラパゴス諸島と同じ陸地に住むゾウガメが生息するアルダブラ環礁はともに世界自然遺産に登録されている。
セイシェルはアフリカのあらゆる主権国のなかで最も人口が少ない国である。
また、人口、面積ともに世界のなかでもバチカン、モナコ、ツバルなど下から数えるほうが早い小国である。
2006年現在、人口7万5千人。
民族構成は、移住してきた白人と黒人の混血、クレオールである。
大多数はモザンビーク系アフリカ人だが、イギリスやフランスの移民者の子孫もいるし、インド系、中国系もいる。
これらすべてのひとびとをクレオールと総称して呼んでおり、民族的調和がとても保たれている。
誰もがクレオール語を話し、宗教はキリスト系信者がほとんどだ。
カトリック系が90%を占め、イギリス国教会が8%、残りの2%がイスラム教徒、ヒンズー教徒などである。
また、1958年に禁止されたが、神業や「グリグリ」と呼ばれるアフリカから伝播したとされる呪術信仰も一部のひとびとでささやかながら信じられている。
セイシェルは民族的、政治的、宗教的対立が少なく、伝統的で敬虔なひとびとが暮らし、おまけに国を挙げて観光誘致に積極的とくれば、滞在中大きなドラブルに巻き込まれることもなく安全だ。
独立後の無血クーデターの後、しばらく一党独裁の社会主義政策をとってきたが、穏やかな個人資産も認められる緩やかな社会主義路線をとった中立国家である。
この島嶼にひとが住み着いた歴史は驚くほど浅い。
1527年、バスコ・ダ・ガマが南緯4度のインド洋に島を発見したと記されており、これが人類最初の発見とされている。
セイシェルに先住民はいなかった。
大航海時代、インド洋にある他の島々と同じく、水の補給や食料などの調達のため、これらの島に寄港したひとびとは、セイシェルを「地上の楽園」と呼んだらしい。
大航海時代の発見により、17世紀頃からアフリカ、インド、ヨーロッパなどからの移民が住み始めた。
「フリー百科事典ウィキデペア」にもう少し詳しい説明を求めてみよう。
「――セイシェルに関する最も古い情報は、7~8世紀にアラブ人が来航したことである。
1502年にはバスコ・ダ・ガマの第2回東インド航海において、アミラント諸島を発見し、アラブ人が活動しているのを目撃している。17世紀には海賊の基地となっている――」とある。
当時は、無人島であったため海賊の格好の隠れ家でもあったらしい。
マヘ島にはその昔、「インド洋を荒らしまわった悪名高き海賊オリビィエ・ル・ヴァサーが財宝を隠した」という伝説がある。
神秘の果実ココ・デ・メールに海賊の秘宝伝説――ロマンを掻き立てられるではないか。
さまざまな固有の動植物、純白のパウダービーチ、様々な魚が暮らす珊瑚礁、透き通った青い海とココヤシの木、楽園そのもののイメージ。
そして、忘れてならないのが、松田聖子が歌った「セイシェルの夕陽」。
同世代のひとならしばらく考え、「ああ、あれね」ときっと大きく頷くに違いない、
「セイシェルの夕陽が~~♪」
このサビの部分だけ何度も何度も反復し、いっこうに進まないのもきっと同じはずだ。
当時から、日本にはセイシェルの情報がまったくといっていいほど入ってこなかったが、私は確信していた。
松田聖子があそこまで歌ったからには、他に類をみない天国極楽浄土桃源郷パラダイスシャングリラなリゾート地にほかあるまい。
当時、高校3年生であった私は、南国の恋と旅心のイメージを重ね合わして夢想したものだ。
しかも、アルバムでのシングルカットは「天国のキッス」だもんなぁ~~。
昇天してしまいます、ボク。
アルバムの名は「ユートピア」
この1983年発売のアルバム「ユートピア」、家のお宝部屋にある復刻版CDのクレジットによると、作詞、松本隆、松任谷由美。作曲、細野晴臣、財津和夫、来次たかお、杉真里、甲斐よしひろ。編曲、大村雅郎、松任谷正隆の面々という80年代のポップス界をリードする最強メンバーが勢ぞろいである。
「セイシェル・松田聖子」で検索エンジンにかけると最初にヒットした、『旅行のすすめ~音楽から感じる旅~[
http://overthemoon.rgr.jp/travel/index.html]』にこう紹介されている。
「―――さて、「旅」を感じる音楽ということで、まずあげておきたいのは、松田聖子さんの曲である。
え~、松田聖子ぉ~?!とバカにするなかれ。
松田さんの歌には、意外と旅心を感じる歌が多いのである。
この歌「セイシェルの夕陽」も、彼女のアルバムの曲としては比較的メジャーな歌である。
最初が「ユートピア」だから、発売は1983年頃?結構、前の歌だけど(苦笑)。
数年前に雑誌の旅行関係の特集記事で、セイシェルに行った邦人旅行者のうち、60%はこの歌を知っていただが、この歌で行きたくなったかっていうアンケート調査が出ていたので、結論的に実証されている(笑)。もっとも、私の記憶はかなり曖昧になっているのだけど(笑)。
何を隠そう、ワタクシも、この歌を聴いて、絶対セイシェルに行ってやる!と心に誓った一人である。
この曲は、ワタクシ的には、松田さんを代表するバラードの1つだと思っている。非常によい曲なので、まだ聴いたことのない人は、ぜひ聴いてみて。そして、セイシェルに行ってみよう(笑)。
よい曲といえば、一つエピソードを思い出した。中学の時の音楽の歌のテストで、自由課題ってのがあった。ワタクシ的にはこの歌をぜひ歌いたかったのだが、名簿順で先の別の女の子に歌われてしまった。たかだかアルバムの曲だが、結構みんな知っていたわけだ(笑)。
さて、どんな歌かというと。
主人公の女性は、一人でセイシェルに来ている。セイシェルの夕陽を見ながら、恋人を思い出している。あなたと来たら、きっと素敵なロマンスが生まれたでしょう、みたいな感じ。
で、結構、風景描写なんかが出てきて。
セイシェルの夕陽を表現するのに、「真っ赤なインク海に流している、あなたにも見せたいわ」「世界のどんな場所で見るよりも、美しい夕焼けよ」「私は熱い紅茶飲みながら、なぜかしら涙ぐむ」とまあ、こんな感じなのである。なんか見てみたくなるでしょう(笑)。世界で一番美しい夕焼けを。紅茶を飲みながら、センチメンタルな気分に浸れそうな夕焼けを(笑)。~(略)~リゾート系の島には1度も行ったことがないので、一度はそういう自然の中で、ゆっくりしてみたい。
セイシェルにも絶対行ってやるぞ~と、今、またここに誓ったのであった(笑)――――」
ちょっと気持ち悪いくらい、私と全く同じではないか(笑)。
それに、旅を感じる音楽―――私がいつも求めているテーマでもある。
旅は音楽、音楽は旅なのだ。
因みに、アルバム「ユートピア」は、「セイシェルの夕陽」、「天国のキッス」以外にも「秘密の花園」、「メディテーション」、「マイアミ午前5時」、「あなたにROCK ON」、「ピーチ シャーベット」など。まるで、「歌で巡る地球上のビーチ・リゾート」の様相。
ホワイトビーチの波打ち際で抱きしめ合いながら、白い波しぶきがこれでもかと押し寄せてくるように、熱く、淡く、ときにはせつない旅心がそそられる構成になっている。
きっとこれを聴いたあなたも、寄せては返す波の音と恋のさざめきで満腹感一杯になるはずだ。
恋に乾杯、ご馳走様、なのである。